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夜の河(1956) [邦画・ドラマ]

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巨匠・吉村公三監督が、京都を舞台に秘められた大人の恋を描いた、「夜の河」(1956、大映)
原作は沢野久雄、脚本は田中澄江、撮影は宮川一夫。
出演は、山本富士子、上原謙、阿井美千子、川崎敬三、東野英治郎ほか。


京都・堀川で染織業をいとなむ「まるよし」の娘・舟木きわ(山本富士子)は、伝統的な染織のみならず自らも新しいデザインに挑戦する自立した女性。美大生の岡本五郎(川崎敬三)はきわの崇拝者で、才能あふれる彼女を自分のなかで理想化している。女学校時代からの友人・せつ子(阿井美千子)もきわの崇拝者である。
29歳のきわが仕事一筋で結婚しないことを父・由次郎(東野英治郎)は心配しているが、着物業界の現状、つまり、きわの独創的なデザインは評判がよかったが、それでも洋服の勢いにおされて着物離れが進む現状を考えると、きわの存在はありがたかった。

ある日、近江屋(小沢栄)の紹介で店に着物を置くことが決まったきわは、新たな創作意欲にもえて奈良を訪ねる。そして、法隆寺で自らがデザインしたネクタイを結ぶ大阪大学の竹村幸雄(上原謙)たちと出会う。自分の作品をつけてくれる竹村への思いは、その後、竹村がきわの元に同窓会の品物を注文してからますます強いものとなっていく。一方、竹村も美しく凛としたきわの存在を気にし始めるように。

竹村の研究目標、赤いショウジョウバエをつくるということを聞いたきわは、赤いハエをモチーフとしたデザインを手がけ、竹村がその研究報告として東京に行くことから、近江屋に頼み、銀座での着物ショーに参加することを決意する。
東京に行く列車の中で、偶然、竹村と会ったきわは、竹村への思いを強くし、また竹村も、落胆した自分のそばにいて、自分に好意を寄せるきわに対して強い思いを抱くようになる。近江屋は、日頃からきわに下心を抱き、ショーのための東京行きも自分との関係を深めるためだと思っていたにも関わらず、きわがきっぱりと断ったことに対して、逆恨みをもつ。その恨みは、着物業界の寄合の席で爆発した。

うっとうしい気分になっていたきわは、せつ子から竹村が京都に来ていることを知らされ、竹村と再会する。雨に降られて宿に入った竹村ときわは、竹村が岡山に行くという言葉によって離れがたい思いにかられ、関係を持つのだった。

竹村の娘・あつ子(市川和子)とは奈良で会っていたので、娘がいることは知っている。しかし、あつ子から、竹村の妻が生きていて、しかも重い病気のため余命幾ばくかという状況を知り、そして竹村から「もう少しの辛抱だ」と言われたきわは、自分がまるで、竹村の妻の死を願う愛人のようだと思われているようで、たまらない気分になる。

そして訃報が届いた。竹村の妻の死を知らされ、家族の者はきわが後添えになるものだとよろこんでいる。複雑で憂鬱な気持ちがきわを支配する。そんなとき、画家を諦めて故郷に戻る岡本の、自分を崇拝する澄んだまなざしに対して、きわはようやくひとつの決意をするのだった・・・。



オープニングとエンディングにメーデーのようすが描かれているが、それに対するきわの態度の違いは、竹村との恋がどのようなものだったかを如実に物語っています。

山本富士子と上原謙という、共に一時代を気づいた美男美女の組み合わせ。山本演じるヒロインは、伝統的な染織の仕事をしつつ、独自の表現をも試みる自我の強い女性です。これを山本は、京女の華やかさとしたたかさ、そして凛とした女性として見事に表現しています。この作品によって、山本の演技力は開花し、スターとしての名声を名実とも獲得したのであり、山本にとっては記念的な作品といえるでしょう。それは吉村監督の力のおかげといえます。

また、この作品は吉村監督の初のカラー作品です。ヒロインが染織家であることを生かした多彩な色使い、その時々で山本演じる「きわ」と上原演じる「竹村」の関係を予兆させる華やかな花の使い方は、とても斬新で美しい。

東京に向かう列車の中で2人が偶然出会い、2人の心が寄り添いあう瞬間の場面は、まるで川端康成の『雪国』の冒頭シーンのようでした。窓にうつる少女の顔に注がれる視線・・・とても余情的です。一方、竹村の妻の容態が悪いことを知り、それぞれの思いを抱いて海を見下ろす崖の上にたたずむ2人の姿は、列車でのシーンとは正反対の、どこかむなしさを感じてしまいます。

映像も演出も、山本富士子の演技もとてもよかったです。近江屋とその妻のコミカルな関係も、適度に「間」をつくってくれました。

ものすごく好きな作品ですが、ひとつ気になったことが。
作品に対してのものではなく、本当にごくごく個人的に気になったことなのですが、上原謙が、複雑な思い出たたずむ山本富士子に向かって「ね~君ぃ、ど~したの」というセリフは、とっても鳥肌が立ちました。恋人同士の甘い言葉だと理解しているのですが、なよっとしていて、正直、ひいてしまいました。
こんな言葉は、冷静に聞いてはいけないということでしょうね。


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  • 発売日: 2012/11/15
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