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山の郵便配達(1999) [アジア]

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良い作品であることは知っていましたが、年を重ねてから改めて見ると、その良さがさらに深く味わえます。
彭見明による同名の短編小説『山の郵便配達』を原作とする、中国映画「山の郵便配達」(1999、原題:那山、那人、英題:Postmen in the Mountains)
監督は霍建起、脚本は思蕪。
出演は滕汝駿、劉燁、趙秀麗、陳好など。
1999年の中国映画金鶏賞では、主演男優賞(滕汝駿)と作品賞を、2002年の毎日映画コンクールでは外国映画ベストワン賞を、2002年のモントリオール世界映画祭ではPeople's Choice Awardを受賞。



1980年代初期の中国湖南省西部の山岳地域。
その地域で、長年にわたって郵便物を届けていたベテランの郵便配達員(滕汝駿)は、膝を痛めて引退することになった。代わりに、24歳になる息子(劉燁)が新しく郵便配達員となる。配達は、2泊3日の厳しい道のりである。はじめての配達を前に、父は心配して入念に準備を手伝い、息子に配達にかんする諸注意を告げる。
出発の朝、父の相棒であり誠実な家族でもある犬「次男坊」を呼ぶ息子だったが、次男坊は、父ではなく息子に呼ばれるという、いつもとは違う状況を理解できず、送り出す父のそばから離れない。息子は、地図も持っているので、自分ひとりで行くと言い、出かける。その息子の後を、父は心配して自分も付いていくと追いかけ、その父を追って次男坊も追いかけてくるのだった。
父にとっては最後の、息子にとってははじめての郵便配達が始まる。

息子にとって父は、仕事でほとんど家に戻らず、容易に近づけない怖い存在だった。
「父さん」と呼んだこともない。
母(趙秀麗)が、いつも父の帰りを待ち、さびしそうだったことも、父との距離を感じさせる要因だった。出かけていく者は、その時々のことに必死で、待つ者のことなど思い出したりはしないのだろうが、残された者は、出かけた者を心配して待つしかない。父は、待っている自分と母のことを思ってくれていたのだろうか、さらにいえば、父は自分のことを嫌いなのではないか、そのような思いを息子は抱いていたのだった。

最初はなんとなく遠慮し合っていた父と息子だが、父と配達先の人々との深い交流を見ていくうちに、息子は父の仕事を、父は息子の成長を知っていく。父は息子に郵便配達員の仕事とはどのようなものか、その心得を丁寧に教え、息子もまた、郵便配達員の仕事が単に手紙を送り届けるだけはないことを知るのだった。
最初の夜は、トン族の結婚式の祝宴にも加わることになる。トン族の娘(陳好)に、息子は思わず見惚れる。そんな息子のようすに、父は、母との出会いを思い出していた。母は山の娘で、ケガをしていたところを父が助けて結ばれたのだった。トン族の村を出たとき、父は、仲良く話をする息子とトン族の娘のことを思い出し、娘に好意を持ったのではないか、と息子に聞く。息子は、娘には好意を持ったが「山の娘とは結婚しない」と言うのだった。なぜならば、母がいつも故郷を恋しがっていたからだ、と。そのことばを聞き、父は、息子のさびしさを知るのだった。

4キロの道を短縮するため、川を渡ることに。
息子は、父を背負って川を渡る。そして、川の水で冷えた体を温めるために焚火をする。
焚火にあたりながら、父は、息子が生まれたことを知らせる母の手紙を受け取ったことを、郵便配達員をしていて自分の手紙を配達したのははじめてで、とてもうれしかったことを話す。その話を聞きながら、息子は、父もまた家に残した母や自分を思い、つらい思いをしていたのだということを、父は、息子がさびしさの中にも父を慕い、そして母を守りながら、頼もしく立派に成長したことに気づく。
「父さん、行こうよ」
先を急ぐため、息子が父をうながす。息子が父を「父さん」と呼んだのは、これがはじめてだった。

父と息子は、お互いに相手のことを意識しながらも、なかなか打ち解けられなかったこれまでのことを思い出していた。そして、この2泊3日の配達の旅で、その距離が近づいたことを実感するのだった。
郵便配達員の仕事は過酷だ。
息子にそのような酷な仕事をさせるのはしのびない、他の仕事に就くことも可能であると心配する母や周囲の者に対して、父は「あいつなら大丈夫だ」と告げる。
その父のことばを聞いた息子は、父に認められたことを知る。
ひとりで配達に出かける息子のあとに次男坊がついていく。しかし、息子を見送る父の元に戻る。そんな次男坊を父が送り出すと、次男坊は、新たな相棒の息子を追っていく。
郵便配達員という過酷な仕事をやり遂げようと決意した息子の思いを、父はしっかりと受け止めたのだった。





お互いに思い合いながらも、小さなすれ違いで打ち解けられなかった父と子が、父の仕事を継ぎ、その仕事を通して互いを理解していくという、なんともハートウォーミングな話。親の職業を知ることは、とてもすばらしいことです。そして、父の姿を見て、父と同じ職業に就きたいという思いは、「下町ロケット」でも描かれていたように、父子の絆を強くするものかもしれません。
この映画をはじめて見たときは、私はまだ若く、働いていませんでした。そのときも、良い映画だと思いました。しかし、自分が働き始めてから改めてこの映画を見ると、仕事を通じた親子の絆など、いろいろなことが実感できるわけです。今、この映画を見て感動している部分が、すべて実感のこもったものになっているわけです。すごいですね、年を重ねて、経験値が高まることによって得られる映画の楽しみ方というのは。

他にも、この作品では、父と息子の距離が近づいただけでなく、「次男坊」と呼ばれた犬と息子の関係も近づいていることもわかります。
「次男坊」の由来は、いわゆる息子が「長男」で犬が「次男」ということで、犬が家族同然であることを示しているわけです。
最初は、父の相棒である「次男坊」に軽く嫉妬していた息子ですが、旅の後半、2日目の橋を渡るシーンで、いつもは父のそばにいた「次男坊」が、息子の膝に頭を乗せ、水をもらっていました。そして、そのまま「次男坊」が息子の座っている足の間に顔を入れているのです。犬のこの行動は、相手を信頼し、甘えていることを示しています。このシーンを見て、「次男坊」は息子のことも相棒だと認め始めたことがわかります。
犬フェチにはたまらないシーンでした。

映像もきれいでいた。湖南省の綏寧県と道県で撮影されたというその山岳風景はとても美しく、自然の優しさと厳しさを伝えてくれます。トン族の踊りも見ることができて、とても良かったです。

この作品は、ぜひ、就職活動中の学生や、社会人になった方に見ていただきたいですね。




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